演出ノート

 

 故立川談志氏の言葉で「落語は人間の業の肯定である」というのがあります。つまり、談志氏が言うには「人間は弱いもので、働きたくないし、酒呑んで寝ていたいし、勉強しろったってやりたくなければやらない、むしゃくしゃしたら親も蹴飛ばしたい、努力したって無駄なものは無駄……所詮そういうものじゃないのか、そういう弱い人間の業を落語は肯定してくれてるんじゃないか」というのです。

 これは僕が演劇を作る上で、とても大切にしている事です。僕は弱い人間を描く事が僕らにとって身近な演劇を作る事だと思っています。

 この物語には沢山の登場人物が出てきます。やはりどの人間もヒーローにはなれないままかっこ悪く死に、或いは生き延びていきます。

 やはり僕はかっこ悪い人間が好きなようです。

 牡丹燈籠をやるにあたって僕が大事にしたいと思った事は現代を生きる我々が牡丹燈籠という物語を作る事です。

 僕らが昔の人たちを真似て演じるのではなく、今の僕らの感覚と身体で牡丹燈籠という物語を演じる事が大事だと思いました。時代劇を作るのではなく、現代劇としてこの牡丹燈籠を作ること、それが現代劇を作る僕らにとって今、牡丹燈籠をやる意味だと思ったからです。

 人を殺すということ、人を愛するということ、人を憎むということ、そして人を大切に思う事、これをかっこ悪いなりに一生懸命もがいて全うする人間を描けたらと思います。

 

演出  田丸一宏